轻小说数据集
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| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846432923974.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | プロローグ | その女の子は、物心がついた時にはいつも傍にいた。 何をするにも一緒。 遊んで笑って、悪戯して怒られて、勉強して褒められて。 時には喧嘩したり、すぐに仲直りしたり。 隣に居るのが当たり前。 気が付けば、どこにいるか相手の姿を追っている。 何故かと問われても、きっとそこに、特に意味はないのだろう。 おかげで性格に好み、それに癖くせ、互いのことは何でも知っていて、考えていることは手に取るようにわかる。 キョーダイ兄妹/姉弟以上に同じ時間を過ごしているのに家族じゃなくて、友達というには相手の存在が大き過ぎて。 二人で一つ、自分の半身のような存在。 それが〝幼馴染〟と呼ぶのだと、かなり後になってから知った。 成長しても、二人の在り方は変わらない。 だけど、周囲は変わっていく。 それから二人の心と身体も。 同じだった彼女との目線は随分と下になり、身体つきだってまるで別。 漫画やアニメ、食べ物や服といった趣味嗜好も変わっていく。 それでも一緒に居て、居心地が良かった。 だけど思春期を迎えた男女が、付き合ってもいないのにいつも近い距離にいるのは、周囲からは奇異に映るらしい。 本人たちも、理屈ではわかっている。 それにお互い、異性に興味がないわけじゃない。 だからその女の子から、この提案が飛び出すのは必然だった。「ね、私たち一度付き合ってみない?」好奇心、もしくは周りの空気に流されて。 宮町みやまち宏こう太たと宝仙寺ほうせんじ咲さく良らは、恋愛なんてよくわからないまま、恋人同士になった。 |
| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846433123933.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第一話幼馴染の裏表① | 周囲を山に囲まれた、とある盆地の地方都市。川沿いや街のあちこちでは、桜が咲き誇っている。柔らかな日差しが降り注ぎ、頬を撫でる風も心地よい。春は、過ごしやすい季節だ。進級と共に顔ぶれが変わり、まだ少し周囲に遠慮気味な空気が漂う二年三組の教室。開け放たれた窓から入ってくる風が、宏太の周囲と違った紅茶のような地毛の髪を揺らす。宏太が自分の席で頬杖を突きながら、うとうととまどろんでいると、ふいにぺしりと頭を叩かれた。「いてっ」「宏太くんの薄情者っ」正面に顔を戻せば、大きな瞳を釣り上げ腰に手を当て、咎めるような目をした女子生徒。くっきり通った目鼻立ちに、スラリと伸びた手足。肌も透き通るように白く、街を歩けばすれ違う人の誰もが二度見してしまうような可憐な容姿。艶やかな長い髪を背中になびかせ、ぷりぷり怒っている様子でさえどこか品を感じさせる、大和撫子という言葉がぴったりな、楚々として少し儚げな見た目の女の子だ。これほどの美少女に睨まれれば気圧されてしまいそうなものだがしかし、宏太は彼女の視線をさらりと受け流し、呆れたため息を返す。「あのな、俺はちゃんと声掛けたぞ。チャイムも鳴らしたし電話もした。それに咲良自身、『あと五分~』なんて言ってたじゃないか」「ね、寝起きの私の言葉を信じちゃいけないって、知ってますよねっ」「知ってる。だからその後メッセージも送ったし、電話だって何回も鳴らしただろ?」「お、おかげで遅刻しなくて助かりましたけど、先に行かなくてもいいじゃないですかっ」「そりゃ、いつ起きるかわからないのも知ってるからな」「うぐっ」そう言って、咲良と呼ばれた少女は口を噤み、拗ねたように唇を尖らせる。一方宏太はニヤリと口元を歪めて、揶揄うように言う。「咲良って普段しっかりしているくせに、昔から時々大寝坊かますことあるよな。夜更かしでもしてんのか?なんか人に言えない趣味とかあったりして」「~~もぅっ、知りませんっ!」「ぁ痛っ」顔を真っ赤にした咲良は、宏太のおでこにデコピンをし、不機嫌そうにふんっと鼻を鳴らして去っていく。周囲からくすくすと忍び笑いと共に、「またやってる」「仲のいいことで」「一年の時もそうだった」といった囁き声も上がる。宏太が大仰に額に両手を当てていると、咲良と入れ替わるようにして隣にやってきた男子生徒が、羨ましそうなため息を零した。「はぁ、いいよな宏太は。宝仙寺さんと仲良くて」「涼りょう介すけか。咲良はただの腐れ縁の幼馴染ってだけだよ」宏太は苦笑しながら、友人である難波なんば涼介へと言葉を返す。するとこのお調子者然とした見た目の中学からのツレは鼻を鳴らし、肩を竦め、ジト目を向けてくる。「何言ってんだ、毎日イチャイチャしてるの見せつけやがって」「俺たち的には、いつも通りにしているだけなんだけどなぁ」「はぁ~~、聞きました、奥さんっ⁉」思わずといった様子で涼介が背後に問いかけると、うんうんと頷くクラスの男子たち。宏太は内心、奥さんなのかよと突っ込みを入れながら苦笑する。そして改めて涼介が咲良の方へ視線を向けたので、宏太もそれに倣う。咲良はクラスの女子たちに囲まれ、話しかけられていた。おすすめのヘアオイルがよかった、昨日観た動画配信がどうこう、課題でわからないところがあってエトセトラ。それらに対し咲良は、「すごくサラつやしてますね」「噂になってるだけあって面白かったです」「あれは私も手こずって」と、ニコリと嫋やかな笑みを浮かべて答えている。先ほどの宏太に対するどこか拗ねたような態度とは一転、見た目同様、物腰柔らかく淑やかなもの。咲良は会話をしているだけだというのに、教室が華やぐような存在感があり、周囲の男子たちの視線を奪っていた。ただでさえ見栄えのよい見た目だというのに、定期考査は常に一位をキープ。体育の授業でもエース級の活躍をみせ、さらには生徒会にも所属。まさに高嶺の花という言葉が相応しい少女といえるだろう。事実、咲良は学園内でも名が広く知れ渡っている。つい先日、入学式では壇上で挨拶をしたこともあって、早速一年の間でも噂になっているのだとか。涼介はつくづくといった風に呟く。「宝仙寺さん、可愛いよなぁ」彼の言葉に同意とばかりに、うっとりとしたため息を漏らすクラスの男子たち。宏太もまた、誇らしげに頬を緩める。「ま、確かに見た目は無駄にいいよな」「無駄にって。宏太、ただの幼馴染って言う割に、そこは可愛いとか思うんだ?」「客観的事実としてね。春休み都心部の繁華街に遊びに行った時、雑誌かなにかのモデルにスカウトされたとか」「え、マジで⁉」「すぐさま断ったらしいから、詳細は俺も知らないけど」宏太がもたらした情報で、周囲がにわかに騒めきだす。咲良は女子たちに囲まれ、奥ゆかしそうに笑っている。涼介は感嘆の息を吐き、ジト目を宏太に向けた。「宏太は宝仙寺さんの幼馴染ってことに感謝しないとダメだぞ。実際、宝仙寺さんと一緒のクラスになれて、ラッキーだと思ってる男子連中も多いし」「ははっ……」涼介の言う通り、宝仙寺咲良という少女は魅力的な存在だろう。確かに宏太は、誰よりも咲良に近いところにいる。それを羨む気持ちというのも、わかるつもりだ。しかし宏太にとって、咲良はあくまで幼馴染でしかない。そのことを思い知っている、、、、、、、宏太は、彼らに向けて何かを誤魔化すように、曖昧な笑みを浮かべた。この日の二時限目の終わり際。「この間のテスト、返すぞ~」そんな数学教諭の言葉と共に、教室は阿鼻叫喚の声が広がった。抜き打ちということもあり、平均点は五一点とあまりよろしくない。涼介なんて答案用紙を受け取った瞬間、シンプルに「やば」と言葉を漏らし、青褪めて固まってしまった。相当悪かったのだろう。時を置かずチャイムが鳴り、休み時間に突入する。宏太もまた、涼介と同じように自分の答案用紙を手に渋い表情を作っていると、ふいに背後から咲良が手元を覗き込んできた。「難しい顔してますけど、宏太くんは何点でした?」「うわっ、見るなよ咲良」咄嗟に答案用紙を胸元に押し当て、隠す宏太。咲良はといえば、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。「もしかして、人に見せられないような点数だったとか?」「……違ぇよ」「あ、今一瞬間がありました」「うるせーよ、そっちこそどうだったんだよ?」すると咲良は自分の答案用紙を、ひょいっとなんてことない風に宏太の机へ広げた。「九五。一ヶ所、ものの見事に引っ掛け問題に躓いちゃいまして」「お、おぉ……」そう言って咲良は、てへりとお茶目に舌先を見せる。わかっていたとはいえ、しっかり高得点を取っている幼馴染に、頬を引き攣らせる宏太。「隙ありっ」「っ!ちょ、おいっ!」すると咲良は無駄に高い反射神経で宏太の一瞬の隙を突き、ひょいっと答案用紙を取り上げる。そしてすぐさま、申し訳ない顔を返してきた。「その、ごめんなさい……」「何で謝るっ⁉六五点は別に悪くないだろっ」「うん、平均点を考えるとそうですよね。隠すくらいだし目も当てられないくらい悪いとか、満点かそれに近い点数かと思ってたのに、エンタメ性皆無でして……」「テストにそんなもん求めんな!それよりほら、後ろ」「うん?……ぁ」宏太がひらりと手を振りながら咲良の背後を示す。そこには答案用紙を持って、そわそわした様子の女子生徒たちが居た。 |
| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846433142948.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第一話幼馴染の裏表② | 彼女たちはおずおずと遠慮がちに咲良に訊ねる。「その、教えて欲しいところがあって――」 「あ、はい。そこは引っ掛けでして、まずはこっちのほうに公式を当てはめて――」 「なるほど、そうなると次は――」 「そっちで出た解は、最初のでなくこっちの式に代入して――」咲良はそのまま宏太の席で、先ほどのテストの解説をしだす。 成績首位を独走している咲良は、時折クラスメイトから勉強の教えを請われることがある。 しかもその教え方はわかりやすく、女子生徒たちに理解の色が深まると共に、次第に気後れしていた男子生徒たちも「実はここを教えて欲しくて」と訊ねてきて、勉強会の輪が広がっていく。 宏太は内心、自分の席でやれよと思いながらも、この場の盛り上がった空気に水を差すのも野暮だと思って席を立つ。そしてテストの結果でぐったりとしている涼介の下へ足を運ぶ。「涼介も、咲良にわからないところ教えてもらったらどうだ?」すると顔を上げた涼介は、ニヒルな笑みを浮かべた。「まず、どこがわからないのか、わからないんだ」 「……え、そんなに悪いの?」 「フッ、ほらこれ」そう言ってチラリと見せられた涼介の点数を見て、宏太は頬を引き攣らせ深刻な声を零す。「うわ、やばいなこれ」 「だろ?……どうしよ」 「いや、勉強しろよ」 「だよなー」そう言って乾いた笑みを浮かべる友人の目は、笑っていなかった。体育の授業は、隣の四組と合同だ。 本日、男子はソフトボールだった。いくつかのチームに分かれての対抗戦。 グラウンドの広さは有限、一度に全てのチームが試合をできるわけでなく交代制である。 だから、それなりに自由になる時間も多い。 外野ではどこか、のんびりとした空気が流れていた。がっつり身体を動かすものもいいが、こういうまったりしたものも、授業の合間のオアシスになって悪くない。 ちなみに宏太の運動神経は、それなりといったところ。 とはいえ、運動部で普段から身体を動かし鍛えている人には敵わない。 のんびりと他の試合を眺めていると、ふいに体育館の方から歓声が聞こえてきた。 すると隣でボーっとしていた涼介が、ふと気になった風に呟く。「うん?何かあったんかな?」 「体育館ってことは、女子のバレーか」 「行ってみようぜ、宏太」 「おう」暇つぶし、といったノリで体育館へと向かう宏太と涼介。 二人と同じようなノリで覗きに行く男子たちも多い。 体育館に着くと、既に多くの人で溢れかえっていた。 その人の多さに、宏太と涼介は思わず目を丸くして顔を見合わせる。 騒ぎの原因は、彼らが上げる声ですぐにわかった。「宝仙寺さんのジャンプ力すごっ、球速エグッ!」 「てかあのボール拾えるんだっ⁉」 「あのフェイントは、傍から見ててもわからんって!」 「ポニテの宝仙寺さんもすっごくいいんだけど!」実力が拮抗し、一進一退の様子を見せるバレーボールの試合は、手に汗を握る。 その片方のチームを牽引しているのが、咲良だった。 相手チームは周囲の声を聞くに、いつも大会の一、二回戦で敗退してばかりとはいえ、半数を女子バレー部で占めているらしい。 そんな彼女たちと比べても咲良は遜色ない動きをしているだけでなく、巧みに指示を出しチームと連携し、皆の力を引き出している。まるで指揮者さながら。揺れるポニーテールがタクトのよう。 それだけに咲良の活躍が目立ち、魅入られてしまうというもの。周囲からは女子たちの黄色い声と共に「やっぱビジュ良ッ」「すごく推せる!」といった声も上がる。(咲良、女子にも人気だからなぁ)宏太はそうした幼馴染を称賛される声を聞いて、誇らしく思うと同時にむず痒そうに笑う。 すると隣からも涼介の、感心したような呟きが聞こえてきた。「すげぇな、宝仙寺さん」 「あぁ、よくあれだけ動けると思う」 「そっちもだけどほら、よく動くから揺れるというか、危険な武器を隠し持ってるというか」 「っ⁉」少しだらしない表情をしている涼介の視線の先を辿ると、咲良の胸へと辿り着く。 咲良は見るからに巨乳というわけではないが、制服の上からでもメリハリのついたプロポーションをしている。女子の平均を上回る、それなりのものをお持ちだ。 その咲良の胸が、本人の動きに合わせ、ゆっさゆっさといった感じに揺れている。 注意深く周囲を見てみれば涼介と同じように、よく弾む咲良の胸を見てにへらと緩んだ顔をしている人が、それなりの数がいた。 咲良はただでさえ人目を引く容貌をしており、こういう機会についそこを見てしまう気持ちも、男としてわからなくもない。 それでも自分の目の前で、幼馴染を性的な視線で見ていることを隠さない友人に釈然としない宏太は、ジト目で涼介のわき腹を抓った。「そんな風な目で見るなよ、バカッ」 「痛゙っ⁉おいおい、嫉妬かよ」 「違ぇよ――うん?」その時、周囲から悲痛な叫び声が上がった。 何ごとかと視線を元に戻すと、ネット前で足を庇うように倒れ蹲る、咲良の姿。どうやらブロックした際、着地でへまをしてしまったようだ。 すぐさま試合は中断され、試合をしていた他の生徒たちもオロオロするばかり。「っ!」 「宏太っ⁉」宏太はすぐさまコートへ飛び出した。周囲から突然現れた男子生徒に対する驚きと困惑の視線が注がれる中、宏太はそれらをまるで気にも留めず、一直線に咲良の下へ。「咲良、大丈夫……ではなさそうだな」 「こ、宏太くん⁉」いきなり現れた宏太に、咲良は驚きの声を返す。 しかし宏太はそれよりもと、咲良の足を見てくしゃりと顔を歪める。「捻挫か?」 「はい、多分」 「保健室行くぞ」 「わ、ちょっ⁉」宏太は躊躇いもなくひょいっと、咲良を横向きに抱きかかえた。いわゆるお姫様抱っこだ。 いきなりの宏太の行動に、咲良は驚きと羞恥の声を上げる。そして周囲からは息を呑む音。 咲良は恥ずかしさから身を捩らすも、宏太が「暴れるな、落ちるぞ」と窘めれば「うぅ~」と小さく唸り、大人しくなる。 フッと頬を緩めた宏太は、すぐ近くに居た同じチームの女子生徒に声をかけた。「すまん、後は任せていいか?」女子生徒は機械のようにコクコクと頷く。 宏太は咲良を再度抱え直し、体育館を後にする。 そして宏太と咲良の姿が見えなくなった後、「「「きゃーっ!」」」と体育館を揺るがすような大歓声が上がった。幸いにして咲良の足は、少し捻った程度でなんともなかった。 痛みも引けば歩行にも問題ないと、養護教諭のお墨付きも得ている。 宏太は幼馴染の無事に、ホッと胸を撫で下ろす。 しかし先ほどは非常に大胆かつ、目立つことをしてしまったのは事実。だが宏太としては当然のことをしたまでで、もしまた似たような事故があれば、すかさず飛び出すのだが。 当然というべきか、皆より少し遅れて帰ってきた教室では、「リアルでお姫様抱っことか初めてみた!」「めっちゃ反応早かったよな!」「見せつけやがって」「でもちょっと憧れるよね」といった話題で盛り上がっていた。 もちろん宏太も涼介から「よくやるよ」とニヤニヤした顔で突っ込まれたし、咲良も女子たちに囲まれ、怪我のことなどそっちのけでお姫様抱っこについて言及されて赤面している。 そんな感じで訪れた昼休み。 いつものように机をくっつけて作られた席で宏太は咲良と涼介、それから活発という表現がよく似合う、上本うえほん町まち陽ひ菜子なこを合わせたいつもつるむ友人たち四人で弁当を囲んだところで、咲良は赤く染めたほっぺを膨らませながらジト目を向けてきた。「もぅ、宏太くんは大袈裟過ぎますっ」 「ははっ、悪ぃ。つい身体が動いちまって。でも、何もなくてよかっただろ?」 「それはそうかもですけど……あの後、皆から色々言われて大変だったんですからねっ」するとぷりぷりした咲良の隣に座る、中一からの友人である陽菜子が、少し意地の悪い笑みを浮かべて問う。 |
| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846433164495.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第一話幼馴染の裏表③ | 「でもでも、あんな風に情熱的に助けられたら、女子的にちょっと嬉しかったり、胸がキュンとしたりしなかった?」 「しません」 「ホントにぃ~、少しも~?宮町くんってクォーターだし、結構イケメンだしさ」 「はい、まったく、これっぽっちも。宏太くんの顔が、客観的に見ていいのは認めますけど」 「むぅ、あたしだったらさ、テンション上がってお礼にほっぺにチューくらいするなー」 「っていうかですね、私としては普通に背中に負ぶって欲しかったです」はぁ、と咲良はこれ見よがしに大きなため息を吐く。 それに対し、陽菜子もケラケラと笑いながら揶揄うように言う。「ま、結構な騒ぎになっちゃったもんね」宏太がバツの悪い顔を作っていると、隣の涼介ふとした疑問を零す。「でもさ、実際宏太的にも、実はわざとお姫様抱っこしたんじゃないか?」 「ないない。背負おうとすると、咲良から動いてもらわなきゃだろ?もし大怪我だったらことだし、直接抱えた方が効率的ってだけ」 「ホントかぁ~?」宏太が片手を振りながらそれは違うと否定するも、涼介はなおも訝しむ目を向けてくる。 しかし代わりに咲良が呆れた声で、宏太の意見を肯定した。「それ、本気で言ってますよ。宏太くん、昔からそんなでしたし」 「さすが、咲良はわかってくれているようでなにより」 「褒めてませんっ」 「あははっ」咲良からもそう言われると、涼介も肩を竦めて引き下がるしかない。 それでも少し残念そうに、感じていたことを漏らす。「そっかぁ。オレはてっきり、宝仙寺は俺のだぜアピールかもって思ったんだよな~」すると陽菜子も涼介の言葉に同意を示す。「あ、それあたしも思った!普段からイチャイチャしてるし!」 「「してない(ません)!」」すぐさま声を重ねる宏太と咲良。 その様子を見て、ほらやっぱりと言いたげにニヤニヤした目を向けてくる涼介と陽菜子。「だってなぁ、オレらからしたらそれでまだ付き合ってない、っていう方がおかしいくらい」 「うんうん、てか今日のお弁当だって咲良ちゃんと宮町くん、同じ内容だしさ」そう言って陽菜子は宏太と咲良の弁当箱へと目を向ける。 本日の二人の弁当内容は、どちらもオムライス。彩りと栄養面も考えて、ミニトマトとブロッコリー、それからカットされたリンゴも添えられたものだ。 宏太は少し得意気になって答える。「そりゃ、今日の弁当は俺が作ってるからな。いつも咲良と交代で弁当用意してるし。今日のオムライスの出来は自信があるんだ。ったく、咲良の寝坊が俺の担当の日でよかったな」 「むぐっ」宏太がついでとばかりに今日の寝坊を茶化せば、咲良が拗ねたようなジト目を向けてくる。 そんな二人を見て涼介と陽菜子は「「説得力ッ」」と声を重ねて突っ込む。 とはいえ、友人たちの気持ちはわからないでもない。周囲で自分たちが付き合っているという噂があるのも知っている。咲良とも顔を見合わせ苦笑い。 それでも宏太は、一応とばかりに言葉にして形作った。「ま、幼馴染だからな。それ以上の目で見られないんだよ。咲良は可愛いと思うけど、咲良は咲良。ほら、美人は三日で飽きるとかいうだろ?」 「そうですね。私も宏太くんが生まれてからずっとすぐそばに居てこうですから、色々と諦めてますので」 「おいおい、諦めてるって」 「そっちこそ、飽きるっていう方が酷くないですか⁉」 「美人ってのは否定しないんだ?」 「~~もう、揚げ足を取る!バツとして食べ終わったら、生徒会の仕事を手伝ってください!」 「はいよ」お箸を持つ手で鼻先を突いてくる咲良に、宏太は降参とばかりに軽く両手を上げる。 そして二人は残りの弁当を素早く平らげ席を立ち、涼介と陽菜子に「それじゃ」と声をかけ、連れ立って教室を後にする。 一連の阿吽の呼吸とでもいうべき流れを見ていた涼介と陽菜子は、嘘だろうと言いたげな顔を見合わせた。「息ピッタリで出ていったな……」 「あはは、あれで付き合ってないって言われてもね……」 咲良は生徒会役員の庶務である。 その仕事内容は備品の管理や部室等での違反がないかの見回り、会議のセッティングに告知ポスターの張り出し、他には各部活や委員会との折衝など様々。ある意味、何でも屋だ。 生徒たちと顔を合わせる機会が多いことから、生徒会の看板的存在ともいえるだろう。咲良の名が学園内で知れ渡った一助にもなっている。 そして宏太はそんな咲良の生徒会庶務の仕事を頻繁に、それこそ毎日のように手伝っていた。 周囲からは咲良と同じ生徒会のメンバーと思われているが、あくまで協力者。所属はしていない。もちろん、咲良からも内申点的にも正式に入ればと誘われている。しかしなんとなく咲良の手伝いはいいけれど、生徒会として仕事をするのが、宏太的にしっくりこなかったのだ。 この日の昼休みの庶務仕事は、図書委員から申請されていた本が入荷されたので、それを引き渡すというもの。 宏太と咲良はまず職員室へ訪れ、手続きをして届けられた本が入った段ボールを受け取った。「本は俺が持つから、咲良は書類回り頼む。って、結構重いな?」 「荷物、よろしくお願いしますね」宏太と咲良はそんなやり取りをしつつ、肩先を並べて、廊下を歩く。 すると宏太は、ふいに隣から漂う香りがいつもと違うことに気付く。「あれ?咲良、もしかしてシャンプー変えた?」 「よく気付きましたね?」 「そりゃ昔からそういうの、咲良に鍛えられてるからな」 「ふふ、それはなによりです。先日美容院で、お試し用を貰いまして。どうですか?」そう言って咲良は機嫌良さそうに、こちらへ頭を向けてくる。宏太は躊躇なく咲良の頭に顔を近付け、すんすんと匂いを嗅いだ。「ん、仄かにベリー……イチゴか?甘酸っぱくて、春らしくていいんじゃない?」 「そうですか、よかったです」咲良は機嫌良さそうに、ふにゃりと頬を緩める。 宏太も釣られてニコリと笑みを零す。 そんな他愛のない話をしながら、図書室へ向かう。 昼休みの校内は勉強から解放され、一時の自由を謳歌する空気が流れていた。 グラウンドで部活動の練習に励む人たちや、中庭で飲み物片手に談笑する人たち。 時折、咲良に片手を上げたり頭を下げたり挨拶する生徒ともすれ違う。宏太に覚えはないものの、生徒会の仕事で知り合ったのだろう。相変わらず人気のようだ。 あちこちの教室から聞こえる賑やかな声から遠ざかるように、校舎の隅の方へ。 お昼の喧騒から切り離された物静かなところに、図書室はあった。 両手が塞がっている宏太は、咲良に扉を開けてもらう形で中へと入る。 図書室にはあまり人がおらず、自習で利用している生徒が片手で収まるくらいの数がいる程度。閑散としたものだ。 受付では図書委員と思しき男子が二人、それぞれ文庫本を読んでいたようだった。彼らは珍しい来客に気付き入り口に目を向け、咲良の姿を捉えた瞬間、目を丸くして相好を崩す。 咲良もまた彼らにニコリと笑みを浮かべ、片手を上げながら受付へ移動する。宏太もその後に続く。「生徒会です。こちら、頼まれていた本が届きました。目録の確認と、間違いがなかったらサインをお願いします。えっと、宏太くん?」 「はいよ。これ、どこに置けばいい?」名前を呼ばれた宏太は、本の入った段ボールを少し上に掲げてアピールする。「あ、ありがとうございます。ではそちらに――」図書委員の指示に従い、受付の隅の方へと荷物を置く。彼らは早速段ボールを開け、咲良が持っていた書類とにらめっこしながら、不備がないか検める。 彼らの様子が少し興奮気味なのは、自分たちが望んだ本が届いただけじゃなく、咲良と話せるからというのもあるだろう。 |
| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846433187622.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第一話幼馴染の裏表④ | 現に本の確認はゆっくりで、「これ、話題になってたから気になって!」「ハードカバーって高いから、自分で買うには中々手が出しにくい」と咲良に話しかけている。そして咲良もまた、「映画になるらしいですね」「私も買う時は文庫版を待つことが多いです」と楽し気に言葉を返せば、会話も弾むというもの。人当たりのよい咲良は、こうして庶務の仕事先で話が盛り上がることも珍しいことじゃない。(これはしばらく、時間がかかりそうだな)あまり興味のないジャンルの会話で、彼らの輪の中に交ざれそうにない宏太は、こっそりとこの場を離脱する。退屈しのぎに何かないかと、当てもなく図書室内を散策することに。最近入った雑誌、それから各種図鑑、世界の遺跡や河川の写真集など、主に文字があまりないものをチェックしていくものの、どれも特にピンとこない。漫画があれば一番いいのにと思いつつ、さすがにそれはないよなと鼻を鳴らす。するとその時、一人の小柄な女子生徒が目に入った。上履きの色から一年生、書架の上の方へと手に持つ本を戻そうとしている。微笑ましくも危なっかしいなと思った宏太は、彼女からひょいっと本を取り上げ代わりに書架へと戻し、にこりと微笑む。「これでいい?」「へ?あ、ありがとうございます」「図書委員の子?」宏太が女子生徒のすぐ傍にあった移動式小型書架ブックトラックに目を向けながら問うと、彼女はコクコクと頷いた。「はい、そうです」「手伝うよ」「え、でもその……」「手持ち無沙汰なんだ。時間潰しさせてよ」そう言って宏太が受付の方へと視線を促せば、そこにはお喋りに夢中になっている図書委員の男子と咲良の姿。事情を察した女子生徒はくすりと笑う。「ふふっ、そういうことでしたら。返却の仕方ですが――」「背表紙に貼られているシールを参照にして、でしょ?」「はい」図書の返却も、去年何度か咲良と手伝ったことがあるので、お手のものだ。あまり量があるわけじゃなく、手分けをすればほどなくして終わる。「これで終わり、っと」「助かりました」律儀にお礼と共に頭を下げる女子生徒に、宏太はなんてことないよとひらりと片手を振る。そして彼女の視線が、チラチラと自分の髪に向けられていることに気付く。宏太の髪は、紅茶のような日本人離れした色をしている。咲良と一緒だと、彼女の方が目立つから霞んでしまうものの、人目を引くのも確か。宏太は自分の髪をひと房掴み、悪戯っぽい笑みを浮かべた。「これ、地毛なんだ。珍しいでしょ?」「え、そうなんですか⁉」「母方の祖父が東欧の人だから、それで。触ってみる?」「へ?」唐突な宏太の提案に、女子生徒は目を瞬かせる。すると彼女はしばし「うぅ~」っと悩ましい唸り声を上げた後、好奇心に負けたのか、おずおずと確認してきた。「そういうことなら、ちょっとだけいいです、か……?」女子生徒がおっかなびっくりと、しかしそわそわした様子で手を伸ばしてくる。宏太が触れやすいように膝に手を突き屈み、頭を差し出す。するとその時、二人の間に底冷えするような声を浴びせられた。「宏太くん、また、、ナンパをしているんですか?」「ぴゃあっ⁉」思わず飛びのき、驚きの声を上げる女子生徒。宏太は声の主である咲良へ、抗議の目を向けた。「誰がナンパだ、誰が。ただのちょっとしたコミュニケーションだろうが」「はぁ、昔から目を離すとすぐに女の子に声を掛けるんですから……気を付けてくださいね?この人、口が上手い上、意外と手が早いですから。ぺろりと食べられちゃいますよ?」「おい、風評被害!」しかし咲良は宏太を無視して女子生徒を案じ、諭すように話しかける。それでもあわあわと目を回す彼女は、やがて耐え切れなくなったのか、脱兎のごとく逃げ出した。「す、すみませんでしたっ!」「あっ」その姿を呆然と見送る宏太。咲良は「ふぅ」と息を吐き、くるりと身を翻す。「はぁ~……用事は終わりましたから、教室に戻りますよ」宏太は慌てて後を追い、廊下へ。そして先ほどのことの不満を咲良へぶつける。「おい、さっきの子に変な勘違いされたらどうする!」「知りません。口説いてたところを邪魔された八つ当たりですか?」「だから口説いてないって!ただ話をするきっかけにだな」「スキンシップを図ろうとしたと」「うぐっ、まぁそう受け取れるかもだけど」「ほらやっぱり」言い負かされ、宏太は言葉を詰まらせる。昔から口げんかで咲良に勝てたためしはない。だから宏太は幼稚だと自覚しつつも、子供っぽい言葉を返す。「ったく、咲良は昔からそういうところ、可愛げがないんだから」「むっ、どうせ私は可愛くないですよーっだ。そういえばさっきの子、大人しくて従順そうで可愛かったですねっ。胸も大きかったし、宏太くんああいう子がタイプなんですねっ、知らなかったなぁ」「んなこと言ってねぇ!はぁ、そういうところが可愛げねぇって言ってんの!」「ぷいっ」そう言って咲良は拗ねたように顔を逸らす。と同時に、チラリと周囲に視線を走らせる。そして咲良は誰もこの場にいないことを確認してから、サッと宏太の傍に身を寄せ、底意地の悪い笑みを浮かべて耳元でこっそり囁いた。「そんな私で、童貞捨てたくせに」「っ⁉おま、それは……っ⁉」いきなり過去のことをバラされ、慌てふためく宏太。咲良はその反応に満足したのか、楽しそうにくすくすと笑った。放課後、この日は生徒会で使用するボールペンやノートといった文具類の発注だけを済ませ、早々に帰宅した。もちろん咲良も、さも当然のように一緒に宮町家へと入ってきて、いつもの習慣で帰宅の挨拶を口にする。「ただいま~、っと」「俺ん家ちだが?」「つまり、私ん家みたいなもんでしょ?」「ったく」そう言って咲良はにししと歯を見せ、外での優等生然とした顔でなく、どこか子供っぽい無邪気な感じで笑う。トトトと軽い足取りで階段を上り、迷うことなく宏太の部屋へ。咲良はそれなりに整頓されている部屋の適当な場所にスクールバッグを置き、膝立ちのまま急かすようにバンバンとローテーブルを叩く。そしてベッドに腰掛け靴下を脱ぎながら言う。「ほら、今日のテストの復習するよー。そこまで悪くはなかったけど、良いってわけでもなかったんだから」「はいはい」「もー、来年は受験生なんだからね、わかってる?今のうちから準備しとかなきゃ、最後に焦るのは宏太自身なんだからね?」「わかってるって」学校では見せないくだけた口調の幼馴染に、宏太は苦笑しつつ本日返却された答案用紙をローテーブルに広げた。すると咲良が傍にやって来て、肩をぴったりとくっつけて座る。いつもの二人の距離感で咲良は宏太が間違えた箇所を見ながら、一つ一つ要点を説明していく。成績優秀な咲良は、教え方も的確でわかりやすい。ことあるごとに勉強を見てくれるのは、お節介と思いつつも助かっているのも事実。「以上、あとは自分で解いてみて。もしわかんないとこあったら、声掛けてよ」咲良は本棚へ移動し「あ、これの新刊出てたんだ」と呟き、ある漫画を抜き出しベッドの上にごろりと寝転がる。スカートも際どいところまで捲れあがり、角度によっては下着が見えかねない。しかし咲良はそんなことはさして気にした風もなく、機嫌良さそうにパタパタと足を動かしている。宏太は咲良の無防備な姿に、呆れたため息を吐いた。(ったく、学校の連中がこの姿を見たらどう思うやら) |
| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846433209840.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第一話幼馴染の裏表⑤ | 外では誰にも見せることのない気を緩んだ姿を見せるのは、宏太が幼馴染だからだろう。それも筋金入りで、こってこての。同じ日に同じ病院で生まれ、住んでいる家も隣同士というだけでなく、互いの部屋も窓を開ければ目と鼻の先。家族ぐるみの付き合いの中、二人一組で育てられ同じ杯ならぬ哺乳瓶を交わし合い、兄妹以上に姉弟な間柄。一緒にいる時間を重ね過ぎ、それぞれのことは家族以上に知り尽くし、距離感が近いとかでなく、もはや隣にいるのが当たり前。学校では猫を被っている咲良だが、宏太にだけは明らかに態度が違う。事実、中学に上がり周囲が色恋沙汰のアレコレを意識するようになると、皆から付き合っていると思われるようになった。お互い、特別で掛け替えのない相手だと思っている。また、年頃の男女でもあるという認識もあった。――一度、恋人として付き合ってみない?咲良からそんな提案が飛び出したのは、当然の帰結といえよう。そして盛大に歯をぶつけ合うぎこちないファーストキスを合図にして、実際に付き合ってみた。去年の夏の終わりから、期間にして半年ほど。待ち合わせて買い物に出掛けたり、映画やアミューズメント施設に遊びに行ったり、祭りなどのイベントにはいつもと違う装いで赴いたり。もちろん、デートの際には手も繋ぐしキスもした。おおよそ、カレシカノジョらしいことは一通りこなしただろう。その時のことは今思い返しても、どれも楽しかった記憶で溢れている。だけど、どうしてもお互い最後まで異性として見ることができなかった。それこそ二人の同じ誕生日に童貞と処女を交換して以来、幾度となく身体を重ねても、これまでと同じ幼馴染以外の認識に変わらなかったのだ。お互い恋愛対象にはならない。そのことを思い知った宏太と咲良は、高校二年に進級する際に恋人関係を解消し、元の幼馴染に戻っている。普通、付き合って別れた相手とは気まずくなるものだろう。だというのに、現在宏太の部屋に流れている空気はこれまでと変わらない。きっとそれはやはり、咲良が相手だからだろう。つくづく、自分たちは幼馴染なのだと思う。いつしか宏太はテストの問題を見直し終えていた。咲良の教えの甲斐もあり、全て正解だ。開放感から、「ふぅ~~」と大きく息を吐く。するとこちらに気付いた咲良がベッドで寝ころんだまま、漫画からこちらへ顔を向けてきた。「どったの?終わった?わかんないところない?」「終わった。んで今のは、咲良のはしたない恰好に呆れてただけ。もう少しこう、恥じらいをだな」「今更でしょ。それに、そういうのは学校でお腹いっぱい」「目のやり場に困るって言ってんの!」「あはっ、そういや宏太は私で興奮しちゃうんだったね。見る?ちょっとくらいならサービスするよ。カレシじゃないから、ヤラせてあげらんないけど」「こら、やめなさい」今さら宏太に下着を見られることぐらい何とも思わない咲良は、しなを作ってスカートを捲ってくるので、慌ててその手を押さえて止める。一度恋人関係を持ってしまい、握られる弱みを増やしてしまった幼馴染にジト目を向けるも、咲良はただくつくつと愉快そうに肩を揺らすのみ。そんな咲良を見て宏太はガリガリと頭を掻き、心の中で日頃から思っていることを毒づいた。――これだから、幼馴染って厄介だ。 |
| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846434500159.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第二話噂の後輩① | 午前中、移動教室で廊下を歩いていると、ふいに涼介が訝しむ声を上げた。「なんだ、ありゃ?」「うん?」宏太が釣られて涼介の視線の先を追って、窓から下の中庭を覗くと、そこには一組の男女がいた。どちらも髪を明るい色に染め、制服も着崩しており、どこか軽薄な印象を受ける。様子を見るに、男子生徒がひたすら小柄な女子生徒に話しかけているようだ。陽キャ同士の会話に見えるがしかし、どこか緊迫した空気も醸しており、なんともちぐはぐ。彼らの声はこの二階までは聞こえてこず、状況はつかめない。宏太と涼介がもどかしい顔を作っていると、そんな二人の様子が気になったのか陽菜子もやって来て、窓から下を覗いた。「どうしたのー……ってあの子、一年の朝熊あさま羽衣ういじゃない?」「知り合いか?」宏太がそう訊ねると、陽菜子はふるふると顔を横に振る。「いや、全然。けど、今年一年でめっちゃ可愛い子がいるって噂があってさ。あたし、こないだもあの子があそこで告白されてるの見たかも。あ~、てかこれも告白っぽいね~」改めて羽衣と呼ばれた女子生徒を見てみる。セミロングの波打つ髪をなびかせ、一部纏めたところに髪飾り。アーモンド形をしたぱっちり大きな瞳に、隙なく施されたメイクは涼やかかつ華やかで、小柄だがスラリと伸びた手足からプロポーションの良さが窺えた。なるほど、確かに咲良とはまた違った系統の美少女で、噂になるのもわかるというもの。どこかクールな感じがする彼女は、孤高の美少女といったところだろうか。事実、羽衣は男子生徒から話しかけられているが、どこかつまらなさそうに無表情で、宏太の評した印象を加速させる。そして宏太は呆れ交じりの嘆息を零した。「確かに、かなり可愛い子だな。それでも告白って、一年とか入学してまだ二週間も経ってないだろうに」「ま、それだけ可愛いくて有名になってる、って話だよ」宏太が驚いていると、いつの間にかやって来た咲良会話に入ってくる。「私も彼女のことを色々耳にしてますよ。二年や三年の先輩も彼女のことを口にするくらい、かなり噂になってるみたいですね」「ふぅん……」やがて羽衣は興味がなくなったのか、ひたすら喋る男子生徒をその場に置き去りにするかのように去っていく。その時も相変わらず無表情だったが、その顔はどこか迷惑そうにも見えた。まだ四月も半ば、新入生なら相手の人となりもまだよくわかっていない頃だろう。それなのに告白なんて、相手の表面というか顔しか見ていないといえる。羽衣がそんな表情をするのも、わからなくもないなと苦笑い。一方男子生徒はといえば振られた形になり、その場でがっくりと肩を落とし項垂れていた。いつの間にか宏太たちと同じように見ていた野次馬たちからも、やっぱりねと言いたげな、残念そうなため息があちこちから漏れている。それから「相手の男子、正直釣り合ってないよね」「それにしても、あの反応はちょっと冷たいんじゃ」という、好き勝手囁かれる声も。そうした声を耳にした宏太は眉間に皺を作り、感じたことを口にした。「モテるってのも大変そうだな」すると涼介が意地の悪い笑みを浮かべ、揶揄いの言葉を投げてくる。「あらやだ、自分は宝仙寺さんがいるから余裕ですってか?」「んなわけねぇっての」相変わらず咲良のことで当てこすられ、宏太は渋面を作る。涼介は宏太の抗議の視線を、肩を竦めてさらりと受け流す。すると陽菜子が、何の気なしといった風に呟いた。「でも実際、あたし咲良ちゃんがちょっかい出されてるところはあっても、告白されたところ見たことないかも」「あー、確かに」宏太が同意の声を上げると、咲良がくすりと笑って答える。「私自身、あまり恋愛ごとに興味ありませんって態度を取っていますから。だけどやはりそこは、宏太くんのおかげですね。カレシだと思われてますので。もっとも、私もその辺りのことは色々面倒ですから、宏太くんとの関係を聞かれても、特に否定していないというのもありますが」「おい、もしかして俺がモテないのって、咲良が俺と付き合ってるって噂を否定してないせいか⁉」「宏太くんは否定してるんでしょう?てことは他に問題、というか普通にモテないだけなのでは?」「うぐっ」宏太が言葉を詰まらせると、咲良はくつくつと愉快気に肩を揺らす。そして咲良はひとしきり笑った後、視線を前へと促した。見てみると、涼介と陽菜子の背中が随分小さくなっている。「ほら、私たちも行きましょう」「おぅ」どうやら涼介と陽菜子は、二人がいうところの宏太と咲良のいちゃつきに付き合っていられないとばかりに、先に行ってしまったようだ。宏太は内心、一言掛けてくればいいのにと思いながら、咲良と共に彼らの後を追う。そして咲良がどこかげんなりとしたように、先ほどの会話の続きを呟いた。「それでも私、告白されることが全くないわけじゃありませんからね?」「そうなのか。っていうか、自慢か?」「違いますー。そういう人って、私に付き合っている人がいることを承知の上でぐいぐいくるので、厄介な人が多いと言いますか。それに思い込みも激しくて。私のこと、無邪気で純粋で色恋沙汰には疎いから守ってあげなきゃ~、みたいな自分の勝手な理想を押し付けてきて、その……」「あぁ……」はぁ、と咲良は辟易したため息を吐く。なるほど、そんな相手のことを慮ることができない人に言い寄られるのは、話も通じないだろうし、さぞ疲れることだろう。宏太も思わず、同情からの苦笑を零す。やはり、モテるってのも大変そうだ。そのことを再認識していると、ふいに咲良が他の人に聞かれないよう、耳元に口を寄せて悪戯っぽい声色で囁いた。「そんな人たちに、私は処女じゃないよって言ったらどんな顔するかな?」「っ、んなこと絶対言うなよ、バカッ!」「てへっ」すぐさま宏太が肩を小突いて突っ込めば、咲良はまるで反省した様子もなく、舌先をチロリと見せて片目を瞑る。もしそんなことを言えば、一番距離の近い宏太が犯人に見立てられることは明白。一体どんな逆恨みをされるか、わかったもんじゃない。まったく、この幼馴染ときたら。なお、ジト目を向ける宏太たちを、少し先にいる涼介と陽菜子はまたいちゃついているなと、小さく頭かぶりを振っていた。お昼休みを告げるチャイムが鳴るなり、教室は一気に騒めき出す。涼介も購買のパンを求め、すぐさま教室を飛び出していった。一方、宏太たちは机を寄せ合っていつものように席を作り、のんびり他愛のない話をしながら、息を切らせた涼介の帰りを待ってお昼にする。今日の弁当は咲良が用意したサンドイッチだ。ふんわりタマゴ、アボカドとブロッコリーの入った海老マヨ、それにレタスと照り焼きチキンという、見た目的にも彩り鮮やかでオシャレな感じである。もちろん、食べ盛りの宏太に対してボリュームの面でも申し分ない。味だって当然、宏太の好みを押さえており、口に運べばその美味しさにぐぬぬと唸る。どうやら咲良は最近また、料理の腕を上げたようだ。咲良はそんな反応をする宏太にしたり顔。別に勝負をしているわけじゃないが、負けていられないという気持ちが沸々と胸に沸き起こる。宏太が内心咲良へめらりと対抗意識を燃やしていると、陽菜子が何かを思い出したように話題を振ってきた。「そういやさ、〝白滴はくてき〟って知ってる?」するとすかさず咲良が、少し弾んだ声で答える。「もしかして、今週末から公開する映画のことですか?」「それ、オレも知ってるかも。確か原作が小説で、何かの賞を取ったやつじゃないっけ?」 |
| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846434676128.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第二話噂の後輩② | そして涼介も咲良に続けば、宏太もそういえば「あぁ」と同意の言葉を返す。思い返すと先日漫画を買いに書店を訪れた時、店頭に映画化云々の帯と共に大量に平積みされていたのを覚えている。確かネットでもそれなりに話題になっていて、ちょくちょく目にしたものだ。陽菜子はこの場の皆が知っていることを確認した後、少し憮然とした顔で話を続ける。「お姉ちゃんがさ、それの試写会の抽選に当たって観に行ったんだ。なんかすっごくよかったらしくドハマりしたみたいでさ。それはいいんだけど、試写会帰りに買った原作小説を、ここんとこず~っとそれのお勧め攻撃されててちょっとウザいんだよね」陽菜子はうげぇ、とげんなりした顔で大きなため息を吐く。涼介も眉を八の字にしながら相槌を打つ。「あぁ漫画と違って、小説って気軽に読めるもんじゃないよな」「そうそう、隙間時間じゃなくて、余裕がある時に腰を落ち着けて読みたいって感じだし」二人のやり取りを見て、宏太は内心同意しつつも苦笑する。確かに何度も執拗にお勧めされれば、気が滅入ってしまうというもの。気心知れた姉なら、ことさらに。そうだろうと思って、同じような存在の咲良に視線を向ければ目が合い、なんとも困った顔を見合わせる。実際、かつて咲良とも似たようなことがあった。咲良が小学生の頃にとある王道ド直球な少女漫画にドハマりして、何度も押し付けてくるものだから、ちょっとしたケンカになったのだ。やがて陽菜子は「お姉ちゃんは時間にルーズ」「今回も衝動買いして、金遣いが荒い」と姉への愚痴を零し出す。咲良はその愚痴の合間を見計らって、親友を窘めた。「まぁまぁ、ひなちゃん。それだけお姉さんはその作品が面白かった、っていう気持ちを共有したいだけだと思いますし、ね?」「それは…………わかってる、けどさ……」理解しているだけに、陽菜子はバツの悪い顔を作る。そこへ宏太は助け舟を出す形で、ある提案をした。「しかし、上本町さんのお姉さんがそれだけ絶賛するって映画、気になってきたな。どうだろ、次の週末観に行ってみないか?」「わっ、それはいいですね!実は私もこの作品の原作を読んでいることもありまして、すごく気になってたんです!」すかさず咲良がパンッと手を合わせ、飛びついた。どこかウキウキした様子でにこにこ笑顔。その言葉に嘘はなく、この作品を楽しみにしているという気持ちが伝わってくる。そわそわしだす咲良を見た陽菜子も、尖らせていた唇を緩めた。「それはいいね。あたしもお姉ちゃんのおススメ攻撃がウザいだけで、作品自体には興味があったし」「なら決まりだな。涼介は?」宏太が問うと、涼介は食べかけの焼きそばコロッケパンの残りを一気に頬張り咀嚼して呑み込んだ後、少し申し訳ない顔で答える。「すまん、その日はバイトだわ」「そっか。じゃあ、行く日を再来週に変えるか?」「あー……悪ぃ、こないだゲーム機買っちゃってさ、フツーに金欠。三人で行ってきてくれ」気恥ずかしそうに己の経済状況を語って背を縮こませる涼介に、宏太たちは「そっか」といって笑うのだった。春眠暁を覚えず。この時期の布団の中の心地よさといったら、いつまでも包まっていたくなる魔性の魅力がある。毎朝、学校へ行くためにその誘惑を撥ねのけるのに鋼の精神力を動員しなければならないが、休日は違う。思う存分微睡みに身を委ね、夢の世界を揺蕩っていると、ふいに冷たい外気に身を晒され、強制的に覚醒させられた。「ほら、さっさと起きて」「寒っ⁉」いきなりのことに寝起きで鈍い頭のまま声の方へと目を向ければ、掛け布団を剥ぎ取った咲良がいた。宏太は不機嫌さを隠そうとせずジト目で睨むも、咲良はさらりと受け流し、そのまま掛け布団を畳みながら急かしてくる。「おはよ、宏太。ほら、早く着替えてよ」そう言ってくる咲良はどこかそわそわしており、上機嫌。また咲良が着ているパステルカラーの春めいた服は、彼女の清楚さや儚さを引き立てる、可愛らしいもの。初めて見る服だった。この春に新調したものだろうか?気合が入っているのが一目瞭然。今日は約束した映画へと行く日だ。どうやら咲良は朝一番の上映を狙っているので起こしに来たらしい。それだけ映画を楽しみにしているというのが伝わってくる。宏太は「はぁ」とため息を吐きながらベッドの上で身を起こして、胡坐をかきながら寝癖がぴょんと跳ねている頭をガリガリと掻く。勉強机に置かれた年季の入った目覚まし時計を確認すれば、まだ七時前。普段起きる時間とあまり変わらず、つい悪態を吐いた。「あのな、いくらなんでも早過ぎだろ」「いいからいいから。あ、着替え手伝ってあげよっか?」「別にいいって!」咲良が手をわきわきさせながら、寝巻き代わりにしているTシャツを脱がそうとしてくるので、宏太は嫌そうな顔で身を捩って回避する。すると大人しく引き下がった咲良は、ジッと宏太のとある場所を見ながらにんまりと口を三日月に歪めた。「そっか~。うんうん、可愛い私の魅力にやられてムラッときたのバレちゃうもんね~」「っ⁉これはただの生理現象だっ!」「発散、、するならいいの見せてあげようか?ほら、今日は下着も新しいのおろしたんだ」そう言って咲良は前屈みになり、くいっと胸元を引っ張れば、ちらりとオフホワイトの可愛らしいフリルがついたものが目に入る。「おい、変なもん見せるんじゃねぇっ!」「あ、照れてる」「はいはい、照れてるでいいから、さっさと出てけ。着替えたいんだよっ」宏太が気まずさから顔を逸らせば、咲良は悪戯が成功したとばかりにくすくすと笑う。そして宏太がひらりと手を振って退出を促せば、咲良は素直に「はーい」といって部屋を後にする。ドアが閉まった後、宏太は熱くなった頬の熱を吐き出すように大きく息を吐いた。咲良は付き合って身体を重ねて以降、こうして際どい揶揄いもするようになった。感覚的にはいつも通りの戯れの延長なのだろう。それはこうして、別れた後も続いている。正直、性に多感な年頃の宏太にとって、目に毒なのは確か。ただでさえ、咲良の見た目は清純派という言葉がぴったりな儚げな美少女なのだ。しかし、言ったところでやめる咲良でもないだろう。それに自分が信頼されているからこそというのもわかっている。まったく、異性の幼馴染ってやつは困ったものだ。はぁ、と大きなため息が零れた。着替えを済ませ、洗面所で身だしなみを整え、リビングに顔を出すと、キッチンにいた咲良がこちらに振り返ることなく言葉を投げてきた。「もう少しでできるから」どうやら咲良は朝食を作ってくれているようだ。そのことを確認した宏太は、咲良に訊ねる。「飲み物は?」「まだ」「んじゃそっちは俺が用意する。いつもの?」「うん、いつもの」咲良の返事を聞くや否やティーパックを取り出し、いつものこと砂糖なし牛乳多めのミルクティーを用意し終えるのとほぼ同時に、咲良の方もできたようだった。手分けしてダイニングテーブルに並べ、「「いただきます」」と手を合わせる。トーストの他はソーセージに目玉焼き、サラダという、簡単だが文句のつけようのない朝食だ。もちろん目玉焼きは、宏太好みの半熟。「宏太、アレ取って」「はいよ」咲良に目玉焼きにかける醤油を手渡しながら、宏太はふと気になっていたことを訊ねた。「そういや母さんは?」「おばさんなら、うちのお母さんと朝早くから出掛けてったよ」「あー……いつもの推し活?」「多分?あ、夜も遅くなるから、夕飯も自分たちでなんとかしてだって」 |
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| https://dengekibunko.jp/novecomi/novel/822139846432873880/822139846434732018.html | - | わたしで童貞捨てたくせに | これは幼馴染と付き合い別れた、その後のお話 | 雲雀湯 | https://cdn-ak.f.st-hatena.com/images/fotolife/d/dengekibunko/20260317/20260317123213.jpg | プロローグ 第一話幼馴染の裏表① 第一話幼馴染の裏表② 第一話幼馴染の裏表③ 第一話幼馴染の裏表④ 第一話幼馴染の裏表⑤ 第二話噂の後輩① 第二話噂の後輩② 第二話噂の後輩③ 第二話噂の後輩④ | 第二話噂の後輩④ | 「今頃、ひなちゃんも観てるかなぁ?週明け、話すのが楽しみ!」宏太も「そうだな」と同意して笑う。するとその時、注文した料理が運ばれてきた。咲良の前に濃い緑色のカレー、宏太の前に鮮やかな黄色のカレーが置かれる。それぞれにサフランライス。珍しいカレーを前に、宏太と咲良は期待の籠った感嘆の息を吐く。そしてスパイスの香りに食欲を刺激させられ、二人はすぐさま手を合わせてカレーに取り掛かった。「ん、クリームみたいだな。レンズ豆とか初めてだ。それに独特の甘み……これ、ココナッツミルク?咲良の方はどうだ?確かそれ、パラなんちゃらだっけ」「パラクパニール、インドのホウレンソウとチーズのカレー。ん~、言葉で伝えるのは難しいや。宏太のパリップと一口交換しよ?確かスリランカのカレーだっけ?」「おぅ」互いの皿に手を伸ばし、それぞれ勝手に掬って口に運ぶ。どちらも、甲乙付けがたく、おいしい。食べる手は止まらない。一口だけという約束なんてあって無きようなもので、シェアするように食べていけばほどなくして全てを平らげる。そして咲良が満足そうに息を吐いた。「ふぅ、今日のも美味しかった。全種コンプリートには、まだまだこの店通わなきゃだね~」「かなりの種類があるもんな。世界中のカレーを集めた専門店を名乗るだけある」「初デートで連れてこられた時は、カレーとかおいおいそれはどうなの、って思ったけどさ」「ははっ、意外と悪くなかっただろ?」「内装だってオシャレだしね」店内へと目を向ければ、木材をふんだんに使い、柔らかで落ち着いた雰囲気をしている。洒落た音楽も流れ大人びており、高校生にとっては少し背伸びして入るような店だ。この店は咲良と付き合った時、初めて食事に訪れた店でもあった。事前の下調べでデートにお勧めとされていた記事を参考にしたものの、カレーとか野暮ったくないかとドキドキしていたことを思い出し、宏太は苦笑を零す。そしてコップの残りの水を一気に飲み干し、咲良に訊ねた。「さて、これからどうする?せっかくここまで出てきたんだ、映画だけ見てすぐ帰るってのも、もったいないし」「そうだね。ん~、適当にそのへんの店でもブラブラ見てく?」「いつものように?」「うん、いつものように」そう言って二人は、顔を見合わせくすくすとおかしそうに笑った。店を後にした宏太と咲良は、駅と都市公園が併設されている複合商業施設へと移動する。様々な店が入っているので、適当に散策するには打ってつけだ。ちなみに繁華街にやってきた時の、定番コースでもあった。ぶらりと宛てもなく歩いていると、もう既に初夏に向けての服が取り扱い始めたようなので、自然とそれらを見て回っていくことに。ただでさえ素材のいい咲良であるが、より自分を磨くことにも余念がない。咲良はどれが一番自分を可愛く演出してくれるか、服を選ぶ目も真剣だ。宏太もまた咲良が服を見ている傍で彼女同様熱心に、自分に合う服を物色していた。咲良は幼馴染のひいき目を差し引いても、見目麗しい少女だ。その咲良と常に一緒なのが宏太である。少なくとも身の回りのことに気にかけ、見劣りしないようにしなければ、胸を張って隣に並べないだろう。気を引き締め、目を光らせる。「お?」するとその時、これは!と思う一着を見つけた。シンプルながら、小粋な意匠を施された洒脱なTシャツだ。サッと広げて自分の身体に当ててみれば、サイズもピッタリの模様。これはいい。買おうかどうか迷っていると、横から呆れたような、感心交じりのため息を吐かれた。「宏太って、相変わらずセンスいいね。やんなっちゃう」「そうか?そこはよくわからんが、これよくね?」「うん、いい感じに似合うよ。ったく、これだから私が苦労するってーの」「はぁ」宏太はよくわからないなと返事をする。すると咲良は眉を顰めながらなんでもないと頭かぶりを振って、それぞれの手に持っていた二つの服を掲げた。「それよりどっちが私に似合うと思う?迷っちゃってさ」「ふむ……」問われ、咲良が選んだ服を見てみる。夏を先取りしたお嬢様然としたサマードレスに、もう一つはティアードのスカートが特徴的な女の子らしいセットアップ。どちらも咲良によく似合いそうで、捨てがたい。「どっちも、と言いたいところだな」「それは予算オーバー」宏太は「だよな」と笑って、再び服に向き直る。どちらを選んでも正解のような問題だ。その中であえて選ぶとなると、もう一つの基準を差し込む必要がある。「ん~、俺としてはセットアップの方が好みかな」「やっぱり?じゃ、これにしよ」「やっぱりって。てかそれでいいのか?」「そりゃ、こっちの方が宏太の好みだからね」「そこ、俺の好みで決めるのかよ」「だって、それ着た姿を一番多く見るのって宏太でしょ?私としても喜んで欲しいし、宏太的にも自分好みの女を目にしたほうが嬉しくない?」そう言ってにししと悪戯っぽい笑みを浮かべる咲良を見て、宏太の頬が熱くなる。宏太は気恥ずかしさからぷいっと顔を逸らし、「おぅ」と素っ気なく答えると、咲良はおかしそうに肩を揺らし、揶揄うように言った。「自分好みの恰好をしてくれる、可愛い幼馴染が居てよかったね?」「言ってろ!」その後もいくつかアパレルショップを見て回り、結局特に何かを買うことなくアーケード街の方へと繰り出した。朝とは違い休日昼間ということもあって、繁華街は多くの人が行き交い賑わっている。宏太と咲良は万が一逸れてはいけないと、どちらからともなく自然に手を繋ぐ。流行り廃りの新陳代謝が盛んなこの街は、いつの間にか初めて見る店が生えてくる。咲良がそんな店の一つを見つけ、興味を引かれたものを見つけたのか、くいっと繋いだ手を引っ張った。「ねね、あの店覗いてみない?」「あれは……」咲良に促されて見てみると、アンティークとメルヘンが融合したかのような外観をした雑貨店だ。絵本の世界を体現したかのような雰囲気を醸しており、心惹かれるものがある。宏太は咲良と顔を見合わせ頷き合い、店内へ。中には可愛らしいキッチン用品や、インテリアとして使えそうな一風変わったデザインの家具、身に付けると心が華やぐような花をモチーフにしたアクセサリーが並んでいた。どれもこれも個性的で日常に彩りを与えてくれそうなものばかり。「ね、このアロマグラスとか宏太の部屋に似合いそうじゃない?」「お、いいな。ていうかこれ以上、咲良の私物を俺の部屋に置くな」「えへっ、別にいいでしょ。私のもう一つの部屋みたいなものだし。あ、こっちの冷めないマグカップっての気になる」「どれどれ……構造的に魔法瓶みたいになっているのか。む、このバスケット、部屋のこまごまとしたものを纏めるのにいいかも」「それなら、こっちのデザインの方が合いそうじゃない?」「でもそれだと、容量的に微妙じゃね?」「あー、確かに」目新しいものを前に、気分は宝探しさながら。その後も興味の惹かれるまま商品を手に取ってみては、咲良との会話も弾む。結局わいわいと商品を手に取って話すだけで何も買わず、雑貨店を後にした。アーケード街をぶらぶら歩き、適当な店に入っては冷やかす。小腹が空いたら昔ながらの古ぼけた老舗の店で、カスタードクリームたい焼きを買ってシェアをする。頭側か尻尾側かは、公正にジャンケンで決めた。気心知れた咲良とこうして遊ぶのは、ひどく楽しい。そんな思いがふと、言葉となって宏太の口から零れ落ちた。「変わらないな」「ん、何が?」「いや、何か付き合っていた頃とその前と、そして今と、ほんと変わらないなって」「あー、確かにね」 |
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